『かぐや姫の物語』の価値は”ジブリ作品”だということじゃなくて、古典「竹取物語」を現代に蘇らせたことだと思う

高畑勲監督の力作『かぐや姫の物語』がアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされていましたが、残念ながら『ベイマックス』に敗れてしまいました。背景と登場人物が一体となって動く”新しいアニメーション”に50億円かけて挑戦した高畑監督の冒険心に、全世界のアニメファンが脱帽しました。

3月13日にテレビ初放送されるということで楽しみにしている人も多い反面、「所詮は”かぐや姫”でしょ」と期待薄な人も多いのではないでしょうか。

→『かぐや姫の物語』がテレビ初放送!完全ノーカットで


『かぐや姫の物語』をジブリでアニメ化したことは、日本人に「竹取物語」という名作古典をもう一度読み返すきっかけを与えたという点で、すごく良かったと思います。我々は「竹取物語」をあまりに知らなすぎました。

原作の「竹取物語」は、竹取の翁が竹やぶで見つけた姫を育て、大きく育った姫はたくさんの求婚者を袖にして、最後は月に帰っていくという、古典の中では珍しい非常にSFチックな昔話。原作者は紀貫之であるという説があり、藤原氏全盛の世を批判する風刺的な意味合いも込められていたという解釈もされていますが、月より降り立つ天上人と下界の”穢き(きたなき)所”に住まう人間たちとの圧倒的な違いを描くことで、幸せとは何かという永遠のテーマに挑戦した名作であると言えます。

翁が求める幸せとは、かぐや姫が高い身分の人と結婚して子孫を残し一族の発展に貢献することであり、かぐや姫が求めていた幸せとは違っていました。物語の悲劇性はそこにあります。

原作では、低い身分の翁が竹林から得た財宝で分不相応な屋敷を構え、かぐや姫を出世させようと躍起になり、高貴な方々に卑屈なまでに振る舞う姿を、醜く哀れなものとして描いています。物語の最後に天上人は「少々の功徳があったから助ける意味で一時姫を預けることにしたのに、金銀に惑わされて心を変えてしまった」と翁を叱ります。かぐや姫と過ごす貧しくとも幸せに満ちた日々というものの価値が分からなくなった翁は、かぐや姫さえも失う結果となりました。

対するかぐや姫の方はと言うと、こちらは天上人の言葉によれば「何らかの罪を償うために下界の卑しい場所に下ろされた」身分。言わば堕天した天使のような存在。人間界のうわべだけの幸せなどに囚われるはずもない高貴な心を持つが故に己を責めて苦しみ続け、それが贖罪となり、許されたことで天上界へ帰ることとなります。(アニメではこのあたりの設定が省略されていて、天上人の叱責も説明もありません。また、かぐや姫の犯した罪についても、アニメ独自の設定が施されています。)

相まみえるはずのないもの同士が相まみえてしまったことで生じる悲劇の物語が、名作古典「竹取物語」。

そしてそれを、可能な限り忠実にアニメ化したのが、今回の『かぐや姫の物語』なのです。

ともすれば平安調のおかめ顔に表現されがちな”かぐや姫”を現代風に美しく愛らしく描き、心に沁み行く音楽に乗せて映像化した『かぐや姫の物語』ですが、原作に忠実であればあるほど、エンターテインメント性は影をひそめ、悲しい物語になってしまいます。しかも、”贖罪”の意味で下界に降りていた姫は、苦しみ抜いた上で月に帰るという以外の結末を天上界から許されてはいません。

『かぐや姫の物語』はジブリアニメとして期待して観る人たちからは「もの足りない」「面白くない」「長くて退屈」という評価を受けました。確かにアニメーション技術や映像美の素晴らしさと、一般的に言うところの”アニメのエンターテイメント性”とは、必ずしも比例するものではないということを改めて感じさせる作品でもあります。

また、ストーリーはあくまでも「竹取物語」なので、ドラマチックなストーリーを求める現代の若者には受け入れにくいのも否めません。実際ジブリらしいところと言えば、オリジナルキャラの”捨て丸兄ちゃん”との飛行シーンぐらいのもの。しかし日本の名作古典「竹取物語」を日本人の心に蘇らせた功績は、今後長きにわたって大いに評価されるべきだと思います。

アカデミー賞はハズしましたが、そういう類の作品ではないということが、観るとよくわかります。監督自身も「ノミネートされただけで光栄」と語っているように、海外ウケする作品ではないですから。純粋に日本人がしみじみと楽しむべき、50億円かけて作った”まんが日本昔ばなし”です。そういう意味では、ジブリで最も贅沢な作品とも言えます。

そんなわけで、観る価値は十分にあると思う『かぐや姫の物語』です。時間が許されるならぜひご覧下さい。



なお、本作品が声優にシロウトを起用せず、主役の朝倉あきをはじめ、地井武男や宮本信子、高畑淳子らベテラン俳優を起用したことも大変良かったと、個人的に思います。セリフの棒読みは作品全体を破壊しますからね。

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