2014年2月27日の朝、レナード・ニモイ氏が83歳で逝去されました。ご冥福を心よりお祈り致します。
レナード・ニモイは『スター・トレック』シリーズのミスター・スポック役で有名でしたが、スポックのイメージにとらわれることのない、演技幅の広い俳優として高い評価を受けていました。
有名すぎる「長寿と繁栄」と知られていない「Fascinating」
とんがり耳のミスター・スポック。独特のハンドサインとともに唱えられるバルカン人式の挨拶、「長寿と繁栄を(live long and prosper)」というセリフは、定番セリフの代表格。最も印象的でした。
でももう一つ定番のセリフがあったようですね。当たり前すぎるセリフなので日本語訳だと状況に応じて訳がまちまちになってしまったそうですが、「魅惑的だ」「興味深い」というような意味合いの「Fascinating!」。感情を出さないバルカン人が何かに魅惑や興味を感じるところが面白いってことなんでしょうね。
実は『スパイ大作戦』にもレギュラー出演
今でこそトム・クルーズのイメージが強い『ミッション・インポッシブル』ですが、テレビドラマ『スパイ大作戦』として日本でも放映されていた頃、レナード・ニモイは変装のプロである”アメイジング・パリス(グレート・パリス)”役でシーズン4と5(1969-1971)にレギュラー出演していました。パリスファンも多かったようです。
記憶に残る「刑事コロンボ」への出演
あの『刑事コロンボ』でも第2シーズン6話「溶ける糸」(1973)で、犯人役の沈着冷静な心臓外科医で登場。たった1話のゲスト出演でも「あのスポックが・・・」と大きな話題になりました。
『トランスフォーマー』では声優も
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011)では伝説の戦士センチネル・プライムの声を担当しました。センチネルは高齢のオートボットという設定だったので老人の風貌をしているのですが、その顔が本人によく似ていて話題になりました。監督のマイケル・ベイのいとこ、女優スーザン・ベイはレナード・ニモイの妻。親戚つながりで、一度は引退を公表したレナード・ニモイが引っ張り出されたという話です。
これ以前にアニメの『トランスフォーマー・ザ・ムービー』(2007)でもガルバトロンの声を演じています。
『SF/ボディースナッチャー』も印象的
古典的SF映画である『SF/ボディー・スナッチャー』(1978)にも精神科医の役で出演しているのもSFファンの間では周知のこと。やっぱり医者とか科学者みたいな役柄が似合っちゃうんですね。
ディズニーアニメにも出演したことが・・・
あまりクローズアップされることがありませんでしたが、ディズニーアニメ『アトランティス/失われた帝国』(2001)にも、キーダの父アトランティス王の役で声の出演をしています。
スポックのイメージが重荷になったことも
レナード・ニモイは2冊の自伝を出しています。1冊目は「I am not Spock」、2冊目は「I am SPOCK(わたしはスポック)」。
1冊目を出した1977年の頃、ニモイはどこに行ってもスポックとして見られることに抵抗を感じており、「わたしはスポックではなく、スポックを演じている役者だ」と著書の中で訴えています。事実この頃、結果的にお蔵入りした正統な続編『スタートレック:フェイズII』へのスポック役としての出演を断った経緯があります。
2冊目は1995年、ニモイが歳を重ねることで、自身の中でのスポックとの共生関係を確立した状態で書かれた自伝です。こちらのほうは日本語訳での出版もされています。
日常生活の中で、時折スポックのように考え、スポックのように話している自分に気づくというニモイ。妻から「またスポックみたいにしゃべってる!」とツッコミを入れられるというエピソードなども交えて書かれており、面白い自伝に仕上がっています。
脱線ですが、個人的に好きな映画で、スター・トレックのオマージュ作品とされる『ギャラクシー・クエスト』(1999)があります。この作品の中では、スポック役のイメージに辟易したニモイをモデルにして、Dr.ラザラス役の俳優が現実世界でドラマの決め台詞を言わされるのを嫌がったり、艦長役の俳優と衝突を繰り返したりする描写があります。こうした設定には、ニモイの2冊の伝記の影響が少なくないようにも思われます。
ちなみにDr.ラザラスの役を演じたのは、スネイプ教授でお馴染みのアラン・リックマン。
スポックとして世界中から愛され、歳を重ねてからもスポックとして生き続けられた俳優レナード・ニモイ氏。ハマり役のイメージに押しつぶされてしまうこともよくある俳優業において、自らがスポックであることを受け入れ、自身の心の中での共存を果たしたその生涯は、安定した幸せなものだったのではないでしょうか。
スポックは映画の中で一度命を落としていますが、バルカン人は死の間際にカトラ(魂)を他者に委ねることができるという設定がありました。ニモイ氏のカトラも、誰かに託されているかもしれません。